エミール・クストリッツァ、ギョーム・カネという映画監督として高名な二人が主演の
『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』を見てきました。
1378/5494″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>
1980年代初頭、KGBの幹部グリゴリエフ大佐(エミール・クストリッツァ)は、フランスの国家保安局を通じて接触した家電メーカーの技師ピエール(ギョーム・カネ)にある情報を渡す。
それは、ソ連が調べ上げたアメリカの軍事機密や西側諸国にいるソ連側スパイのリストなどが含まれ、世界の国家勢力を一変させる力を秘めたものだった。
やがて、二人の間には不思議なきずなが芽生えていくが…。
フェアウェル事件など聞いたこともない。
単に私が政治経済に疎いだけかと思ったけど、世界的にも殆ど知られていない事件らしい。
KGBソ連国歌保安委員会やDSTフランス国土監視局、VPKソ連軍事産業委員会、CIA米中央情報局…
30年前の世界情報戦争だけに、ノータリンな私が鑑賞するなんて無謀だったけど俳優クストリッツァ&ギョーム見たさに、果敢に挑んでみました。
クストリッツァ、最初の登場シーンは夜の車中。
通り抜けるヘッドライトの灯りで照らされた目だけが映る。
「俺には世界を変えることができる」
キューブリック『シャイニング』のジャック・ニコルソンを髣髴させるような、狂気に満ちた極悪スパイかとも思った。
だけど目的はお金じゃない。
盗んだ情報で技術を発展させる国の未来は哀れで悲惨なものと予測し
ソ連崩壊後の、新しく素晴らしい世界を息子に見せるために奮起する父親。
なんとまあ人間的ではないか。
いとも簡単に愛人の存在を息子に知られたり、間抜けな部分も。
息子のためにクイーンのテープやソニーのウォークマンをピエールに頼むシーンが如実に彼の人間性を表現している。
クイーンを「キーン」、ソニーを「ジョニー」と言い間違えるのはちょっとやり過ぎ演出な感じもあったけど、冷酷さを持たないスパイはこれくらい喜劇的要素があってもいいのかしら。
グリゴリエフ大佐はヒーロー扱いされているように見えるけれども
ロシアから見れば「祖国の裏切り者」。
最初はロシア人俳優がキャスティングされていたけれど降板、
更にはロシアでの撮影も不可能な状態に(実際の撮影はウクライナ&フィンランド)。
「ひょんなことから」クストリッツァがオファーを引き受けてくれたらしいけど、
繊細な表情やフランス語の訛り、そして圧倒的な存在感。
完璧なキャスティング!!
一方、私生活ではマリオン・コティヤールのパートナーであるアゲチン・ギョーム。
美しい妻とかわいい子供に恵まれ、金にも不自由していない、ごくごく普通のモサモサしたトムソン社エンジニア。
一般人の彼が、世界を揺るがすスパイ事件に巻き込まれていく…
そんなあり得ないシチュエーション(実話だけど)だからこそ緊迫感が伝わりやすい。
完璧なロシア語台詞も本作で習得したのだとか。おみごとっ
フェアウェル事件と言う歴史的一大事件を学び、ちょっとだけおりこうになった気分でしたが、劇場を出た途端に
「ゴルバチョフ書記長、ゴルバチョフ書記長、ゴルバチョフ書記長」
と3回繰り返している自分は、やっぱりノータリンですな。
フェアウェル
【ネタバレ注意】
『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』のキーパーソンは、ウィレム・デフォーだ。
なのに、出番はとても少な?…
冷戦が終わってしばらく経つのにスパイ物かとも思いましたが、フランス映画『フェアウェル―さらば、哀しみのスパイ』を渋谷のシネマライズで見てきました。
(1)物語は、ソ連のKGBの幹部のグリゴリエフ大佐(そのコードネームが「フェアウェル」)が、各国のソ連スパイから送られてくる西側の最重要機密情報を、フランス人技師ピエールを通して西側に渡し続け、最後には、西側に潜入しているソ連スパイのリストを渡すことによって、ソ連のスパイ網を崩壊させてしまい、ソ連の崩壊の切っ掛けを作った、というものです。
初めのうちは、グリゴリエフ大佐が、西側では極秘扱いとされている情報が記載されている文書(スペースシャトルの設計図とかフランスの原子力潜水艦の航路図など)をピエールに手渡すのを見て、なんでそんなことをするのだろうと、不思議な感じになります。せっかく自分たちが集めた情報を、どうして本の西側に戻そうとするのか理解できませんでした。
しかし、次第に、これはグリゴリエフ大佐の提供する情報に対する信頼度を高めるためのやり方なのだ、ということがわかってきます。
そして、グリゴリエフ大佐の真の目的も、次第に分かってきます。要するに、今のソ連体制では国がダメになってしまうから、ソ連のスパイ網を破壊することによってソ連体制を崩壊させようとしているのです。
ここでもまた、破壊することだけを考える人間が登場するわけです(『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』!)。実際に、彼の行動も一つの切っ掛けとなってソ連は崩壊しますが、その後の体制作りについてはビジョンを持っていませんから、はたしてその後のエリツィン→プーチンと続く政権の下で採られた政策は、どの程度グリゴリエフ大佐が望んだものに近いものなのか、疑問なしとしないところです。
とはいえ、グリゴリエフ大佐が、西側諸国に潜むソ連スパイのリストを小型カメラに収めるシーンとか、グリゴリエフ大佐がソ連当局に捕まり、迫る追及の手からピエールが逃れようとするシーンなどは、これまでのスパイ物同様、随分とスリルに溢れています。
ただ、いくらなんでも、ソ連スパイのリストが掲載されている最重要文書が、幹部の机の鍵のかかっていない抽斗の中に無防備に収められているとは思えないところですが(あるいは、その時までにはソ連の組織は弛緩しきっていて、誰もそんなことに意を用いな